【モーリシャス 石油流出事故】わかしお号の賠償額はいくらか

わかしお 石油流出事故 (モーリシャス沖)その他

先月バルク貨物船わかしお号が起こした石油流出事故により、モーリシャスの海洋生物や自然、島民の健康が危機にさらされています。この記事では海外メディアで報道されているこの事故の賠償責任についてまとめました。

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歴史的な石油流出事故

7月25日、パナマに船籍をおく日本のばら積み貨物船『わかしお号』は中国からブラジルに向けて航行中、国際的に保護されている2つの湿地と海洋公園に近いサンゴ礁に乗り上げ座礁しました。

UNCTADによると今回の流出は、生物多様性に富んだ海で知られるインド洋の島国モーリシャスの歴史の中で最悪のものだと考えられています。原因はまだ調査中とされていますが、本船は貨物を積載しておらず、燃料油3,894トン、軽油207トン、潤滑油90トンが積載されていたと推定されています。

8月11日までに最大2,000トンの燃料が船から漏れたと伝えられ、数日後に船体が分裂しました。船主によると、燃料の大半は回収されたとのことですが、海の汚染は止まっておらず責任の所在についても引き続き議論がなされています。

 

小島嶼開発途上国 (SIDS)

モーリシャス

今週発行された記事でUNCTADは、こういった災害が発生した場合に効果的な国際法体制の重要性を概説しました。 UNCTADは、グローバル化する経済への公平な参加を途上国が得られるよう支援する国連機関です。

この枠組みは、小島嶼開発途上国 (SIDS)が自国水域への石油流出による実際の脅威に直面した場合とくに重要となります。モーリシャスのように、多くの場合SIDSは通商航路の近くに位置しており、国の経済は観光、漁業、水産養殖など、その生物多様性に依存しているからです。

 

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異なる船舶、異なる法律

原油流出による損害の賠償責任者はどこ

わかしお 石油流出事故 (モーリシャス沖)

関連すると思われる条約は、モーリシャスも締約国である2001年のバンカー油汚染損害に対する民事責任に関する国際条約 (通称バンカー条約) です。

他にも、国際法では、石油汚染の責任を扱う包括的な体制が規定されています。具体的には1969年の油濁損害に対する民事責任に関する国際条約と1992年の民事責任条約で、モーリシャスはこれらの条約の締約国ですが、『石油タンカーによる汚染』が対象のため、今回のケースでは適用されないでしょう。

バンカー条約では、船級協会、用船者、船員、オペレーター、または特定の状況にいてさえ、州当局がすべて責任を問われる可能性があるのに対し、後者は二段階の補償体制を提供しているのが特徴です。(船舶の登録所有者は単独で責任を負いますが、すべてをカバーできない場合には、追加で補償を支払ってくれる国際石油汚染補償基金がバックについている)

 

賠償額はいくら

わかしお号 図解

バンカー条約では最大約6517万ドル (約68億) の補償が規定されているのに対し、適用される油濁補償基金制度ではその4倍の2億8600万ドル (約302億) が補償されることになっており、金額は相当なものになるのではないかと予想されています。ただ、賠償額の上限はLLMC条約(海事債権責任制限条約)で定められているのですね。モーリシャスが批准しているのは1976年の条約 (上限およそ20億円) で、日本が批准しているのは1996年の条約(上限およそ70億円)

世界には「先進国が発展中の国を積極的にサポートする」という前提のもとで動いています。そのため一方的に安い賠償で解決する、というのはない気もしますが、どちらを採用するかは裁判所が決めることなので、今後どこで裁判が行われるかがキーとなりそうです。

 

知っておきたい条約・基金

国際油濁補償基金 コクサイユダクホショウキキン 

tanker image (canva)

この基金は、タンカーによる油濁事故による汚染被害の責任と補償のための国際的枠組みの一部

タンカーの所有者は、船舶からの油濁による汚染被害に対して一定額までの補償の責任を負うが、それが被害者を補償するために十分ではない場合に、本基金の加盟国内で生じた被害については追加的な補償をこの基金から支弁することができるというもの。

バンカー条約

tanker image (canva)

燃料油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約International Convention on Civil Liability for Bunker Oil Pollution Damage)のこと。通称バンカー条約これは難事故による船舶の燃料の流出による海洋の汚染損害、座礁による難破物の除去費用にまつわる損害と民事責任に関する国際条約。 主な特徴として下記があげられる。

  • 責任主体者は船主(登録船主、裸傭船者、船舶管理人、運航者)であり、厳格責任(無過失責任)を負う
  • 対象船舶は1,000総トン以上の船舶(ただし、領海内のみを航行する船舶は除く)

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知っておきたい知識

tanker image (canva)

条約によって、批准している国もあれば、批准していない国もあり、事故がおこった国がどの条約を採用しているかについて賠償責任や額が変わるのがややこしいところです。

UNCTADは、船舶による汚染事故がもたらす高いコストと広範な環境的・経済的影響を考慮し、すべての国が世界の利益のために最新の国際法を採用する必要性を改めて強調しています。石油流出のような環境災害が発生した場合に備えて、あらゆる必要な予防措置を講じるなど、可能な限り汚染を最小限に抑えることが重要です。

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参考文献

  • https://news.un.org/en/story/2020/08/1070682
  • https://www.jsanet.or.jp/environment/text/environment3c/02_01.html
  • http://www.mauritiustimes.com/mt/the-law-mv-wakashio/
  • https://abcnews.go.com/International/photos-tanker-oil-spill-catastrophe-mauritius/story?id=72474911
  • http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=2987
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管理人

歴史オタクの英日翻訳者。

スペインの児童書「ベラスケスと十字の謎 」に魅了され、世界史に夢中に。読み漁った文献は国内外あわせて100書以上。史実をもとに、絵画や芸術品の背景にある人間ドラマを炙り出します。

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