【矮人と呼ばれた異形のものたち】王侯貴族の慰め役となった宮廷道化人

スペインの歴史

王女の父フェリペ4世が戴冠したころ、宮廷には数百もの奴隷が存在していました。

当時、「奴隷がいるのは豊かな国家である証拠」とされており、その中でも矮人 (小人症) や超肥満体、黒人や小人症といった異形の者たちは、衣食住などの面でとても良い待遇を受けていたのです。

彼らは『慰み者』と呼ばれ、ユニークな見た目や機知に富んだ会話で王侯貴族を楽しませる役割をかっていました。今日は宮廷画家ベラスケスが描いた『ラス・メニーナス』『バリェーカスの肖像』といった絵をもとに、『慰み者』の存在についてふれていきたいとおもいます。

この記事のポイント
  • 当時の宮廷や貴族間において、「奴隷がいるのは富める者の証」であった
  • 中でも小人症など異形の者は、オークションなどで高値で取引されていた
  • 慰み者」は比較的良い生活をし、上流階級を楽しませる役割を担っていた

 

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スペイン宮廷の慰み者

ベラスケスの絵画『ラスメニーナス』にも描かれている慰み者。この絵をよく見ると、中心にいる愛くるしいマルガリータ王女をまるで引き立たせるかのように、右下には頭部と身長がアンバランスで不機嫌そうな女性が描かれています。

(ラス・メニーナス ベラスケス画)

彼女の名前は「マリア・バルボラ」

彼女は消して不機嫌なわけではなく、病気の症状として頭部が目立ち手足が短いといった特徴をもっていました。しかしなぜ彼女が豪華な衣装を着て王女の部屋に、ましてや国王夫妻やマルガリータ王女と一緒に絵画に描かれているのでしょうか。

高待遇で雇われた宮廷道化師

宮廷道化師

当時スペイン宮廷には、数百の奴隷が存在していました。

そしてその中には、王侯貴族の気を紛らわせたり楽しめる『慰み者』というポジションが存在していたのです。それは超肥満体や巨人、異形のもの、阿呆やおどけ、黒人や混血児などで、彼らは衣食住などの待遇面において比較的良い待遇をうけていました。

『ラス・メニーナス』の右下に描かれたマリア・バルボラは、矮人ともよばれた小人症の女性です。彼女は、皇帝フェリペ4世の娘 マルガリータ王女の遊び相手としてあてがわれ、描かれたときは12歳くらいだったといわれています。

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なぜ「異形のもの」が宮廷では好まれたのか

『慰め者』というのは、元来宮廷で王侯貴族の気分を紛らわす者のことでありました。王侯貴族が彼らを側に置くという習慣は、スペインハプスブルク家ではカール5世 (1500年前後)からはじまったといわれています。

“その人がもつ特異な特徴や機知に飛んだ会話で人を和ませたり演劇に登場したり、楽器を演奏してみたり。人を笑わせて楽しませ和ませる役割を担い、ある意味では『笑われる役』をあてがわれた人たちでもありました。

個性こそが重要とされる宮廷では彼らの存在は突出しており、いわば奴隷市場では『贅沢品』とされている部類にはいりました。彼らを『所有』していることが、一種富とステータスの誇示でもあったのです。

ユニークで機知に富んでいた

 Portrait of Sebastián de Morra (スペインの宮廷画家ベラスケスが忠実に描いた、小人症の男性) 

一見知性に欠けているようにもみえますが、そうではなく、知性に富んでいたからこそ宮廷に雇われていたと言われています。彼ら『慰み者』には不完全性や特異性が求められ、下品な言葉をユーモアにかえて使うといった機転の良さも必要でした。

『道化師セバスティアン・デ・モーラ』は、宮廷画家ベラスケスが偏見なく描いた絵としても知られています。身体のアンバランスさが目立たないように座して描き、国王や貴族らと何ら変わらぬ尊厳をこめたと言われています。

良い服を着て宮廷を歩きながらも、道化者として生きていかなければいけない、底知れないやるせなさや怒りが込められているようにもみえます。

どこか神秘的な存在でも

身体や知能などに障害をもつ者たちは、差別の念から嘲笑され迫害され無視されてきました。しかし一方で、『神によって地上につさわれた高貴な人間』という畏怖もあり、どこか神秘的な繋がりがある存在として、畏敬と尊敬の対象でもあったのです。

そういう意味で忌み嫌われたのは、どこか恐れ多いと畏怖があったからかもしれません。その不完全性や儚さこそ、当時権力を握っていた宮廷人が求めものだったのでしょう。

ちなみにスペインでは、主人公である小人症の男児が道化として生きていく物語『ラス・メニーナス ベラスケスの十字の謎』がベスト3にはいる児童書となっており、不完全な対象として低い階層の人として宮廷で引き立て役を担わなければいけない心の葛藤や、当時のスペイン宮廷の様子もありありと描かれています。

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まとめ

宮廷道化師

ちなみにラスメニーナスの最初の題は『家族の肖像』『王の家族』であったとされています。

道化とされ、慰み者と呼ばれた小人症の人々は『従者』というより、王侯貴族にとっては『家族』に近い存在であったともいわれています。しかしそう思っていたのは王侯貴族だけで、人としての尊厳を無視され勝手に『道化』を演じさせられた方はたまったものじゃないのは、ベラスケスの絵にみえる彼らの表情をみてもわかることでしょう。

【王妃マリーテレーズ】ルイ14世を激怒させた、黒人小姓との隠し子騒動 (参考:【王妃マリーテレーズ】ルイ14世を激怒させた、黒人小姓との隠し子騒動)

ちなみにルイ14世の王妃マリー・テレーズスペイン宮廷の出身彼女は『ナボ』という黒人小姓を常にそばにおき、ついには隠し子まで作ってしまいルイ14世を激怒させたというエピソードも残っています。

哀れみも畏怖も恐れもない、ありのままの人を描いたベラスケスの絵。偏見がはいったりねじ曲げられたりしていない、純粋な画だからこそ500年以上もこの世にのこり、人の心を虜にし続けているのかもしれません

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管理人

歴史オタクの英日翻訳者。

スペインの児童書「ベラスケスと十字の謎 」に魅了され、世界史に夢中に。読み漁った文献は国内外あわせて100書以上。史実をもとに、絵画や芸術品の背景にある人間ドラマを炙り出します。

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