ハプスブルク顎に秘められた恐るべき歴史【みてはいけない禁断の夢】

呪われた王室
この記事のポイント
  • ハプスブルクの君主に受け継がれた鋭く突き出た顎、ふくらんだ下唇
  • スペインの大学が、スペインハプスブルク家の15人のメンバーを対象に調査
  • 研究の結果「高い近親係数」を持つ者ほど異形特徴が強いことがわかった

ハプスブルク家は、ドイツ・オーストリアを中心に広大な領域を支配した王家で、その影響力はポルトガルからトランシルバニアにまで及びました。しかし、彼らの家系図は非常に複雑で、その中には顕著な近親結婚も多くみられました。

この近親結婚が、世代を超えて遺伝した特徴的な「ハプスブルク顎」に大きく寄与している可能性が指摘されています。

戦略結婚

(少年時代のカルロス1世 ベルナールト・ファン・オルレイ画)

多くの王族と同様に、ハプスブルク家も権力を強化するために戦略的な結婚を行っていました。近親者同士で結婚することで、権力をさらに強固にする狙いがあったからです。

しかし、これが遺伝的な問題を引き起こし、「特徴的な外見」を持つ子孫が生まれていくこととなりました。

明らかになった近親交配の影響

スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の遺伝学者ロマン・ヴィラス率いる研究チームは、スペイン・ハプスブルク家の15人のメンバーを対象に調査を行いました。彼らはディエゴ・ベラスケスのような著名な画家が描いた肖像画を用いて、その外見を分析したのです。

ヴィラスと彼のチームは、写実的な肖像画に残されたスペイン・ハプスブルク家の人物に着目しました。そして、20世代以上にわたる広範な家系図を用いて、分析対象としたハプスブルク家の平均近親交配係数が0.093であることを突き止めたのです。

高い近親係数

これは、遺伝子の約9%が、同じ祖先から受け継がれたものであることを意味します。比較として、いとこ同士の子供の近親交配係数は0.0625であり、三従兄弟の子供の場合は0.004です。

肖像画を見ても、代々の君主がこの特徴を受け継いでいることがわかります。

スペインハプスブルク家系図 (当時の家系図)

ハプスブルク顎と近親婚

さらに、研究者たちは口腔および顎の外科医に肖像画を見せ、顎前突(MP、突き出た顎)および上顎劣成長(くぼんだ中顔面)の典型的な異常顔貌を持つハプスブルク家のメンバーがどれだけいるかを評価させました。高いスコアは異形顔貌の強い出現を示しました。

この研究では、「平均近親交配係数」が高く、遺伝子の約9%が同じ祖先から受け継がれていることが判明しました。これにより、劣性遺伝子が同族内で対立遺伝子(※)として集中的に現れ、突出した顎や下唇といった特徴が世代を超えて強く現れるようになったというのです。

(※) ハプスブルク家のように親族間で結婚が繰り返されると、同じ劣性遺伝子を持つ確率が高くなる。その結果、劣性遺伝子が表に出やすくなり、顎が突き出るなどの特徴が強く現れるようになる。

当時の記録

カール5世の肖像画 (スペイン家 初代君主 カール5世の肖像画 Supplied via Wikipedia)

実際に、1517年にイタリアの外交官アントニオ・ディ・ベアティスは、初代皇帝カルロス1世について、「彼は長く、痩せた顔と、警戒を怠ると開いてしまうゆがんだ口を持っていた」と記しています。

彼の近親交配係数は0.038と家族内では比較的低かったものの、世代を経るごとに近親交配の遺伝的影響は増大しました。

「呪われた子」とも呼ばれたスペインハプスブルク家最後の皇帝、カルロス2世は、非常に大きな舌やてんかんなどの病気を抱えており、近親交配係数は0.25にも達しました。

カルロス2世の肖像画  (カルロス2世の肖像画 Supplied via Wikipedia)

彼と彼の姉マルガリータの近交係数(近親交配の度合いを表す数値)は、親子間、兄弟間ででる数値の4倍だったこともわかっています。しかし実際カルロスの父母は叔父姪婚だったこと、そして父母も近い血の上に生まれたことを考えると納得の数字でもあります。

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まとめ

研究によると、ハプスブルク家の特徴的な顎は、近親婚による遺伝的影響の結果だということが判明しています。当時スペイン宮廷の乳児死亡率は、他の王室に比べてとても高いものでした。

権力を外に逃さないため、『高貴な青い血』を汚さないためにかさねられた近親婚の結果が悲劇を招いた中世のスペイン王家。どんなに優れたものであっても、そこに固執してしまっては、良からぬ結果をもたらすことになるのかもしれません。

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