【本当は怖いドガの踊り子】オペラ座は上流階級のための娼館だった!?

絵画や神話・物語

いまや紛れもない芸術となったバレエですが、当時は少し認識が違っていました。オペラ座は上流階級の男たちのための娼館という側面をもち、そこに常駐していた娼婦こそ、この美しい彼女たち (踊り子)だったのです。この記事では、ドガが描いた当時の風景を覗きながら、当時の踊り子のシビアな現実を解いていきたいとおもいます。

この記事のポイント
  • ドガが描いた「踊り子」は、ただのバレリーナではない
  • 当時の劇場は、上流階級に位置する男性のための娼館という側面があった
  • 画家が描いたのは娼婦とパトロン、女性に厳しかった当時のパリの現実だった
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ドガと踊り子

ドガは、バレリーナが舞い踊る様子を多く描きました。エトワールとは「スター」を意味するフランス語で、ここではプリマバレリーナをさします。首に巻いたリボンが軽やかにひるがえり、下からの強いライトに照らされたトウシューズが光るこちらの絵画は、オルセー美術館に所蔵されている『踊りの花形(エトワール、あるいは舞台の踊り子とも呼ばれる)』です。

『踊りの花形(エトワール、あるいは舞台の踊り子とも呼ばれる)』(1878年頃) オルセー美術館

 

当時のバレリーナ

「クラシックバレエ」は現代において、紛れも無い芸術のひとつに数えられています。

また裕福な家庭の子供の習い事、といったイメージもあるでしょう。しかしこの時代の、バレエダンサーは少し違うのです。当時の劇場、とりわけオペラやバレエを上演する『オペラ座』が墜落していたことは多くの同時代人が証言しています。「クラシックバレエ」は現代において、紛れも無い芸術のひとつです。また裕福な家庭の子供の習い事、といったイメージもあるでしょう。しかしこの時代は、今とは違った印象を持たれていました。

『舞台のバレエ稽古』(1874) メトロポリタン美術館『舞台のバレエ稽古』(1874) メトロポリタン美術館

 

高級娼館に身を落としたオペラ座

観客が舞台にのみ集中する現代とは違い、オペラ座は社交場としての性格のほうが強かったといいます。

というのも、舞台が見えにくい「桟敷席」が当時は人気を博していました。ナポレオン3世や、裕福な貴族や紳士が定期予約をしカーテンを閉じればそこで何をしようと構わなかったといわれています。当時の批評家は、「オペラ座は上流階級の男たちのための娼館」という言葉を残しています。

『オペラ座のオーケストラ』(1870) オルセー美術館 『オペラ座のオーケストラ』(1870) オルセー美術館

 

良いパトロンに出会いたい

娼館となったオペラ座に常駐していた娼婦こそ、この美しい彼女たち踊り子でありました。突出した一部のバレリーナをのぞいて、踊り子が芸術家としてみられるのはもう少し後のことです。まともな女性であれば踝まであるスカートを履くのが当たり前だった時代。「少しでもいい暮らしをしたい」という必死の彼女たちにとって、良いパトロンを見つけることは大切なことでした。

エドガー・ドガ 踊り子の世界『リハーサルをする踊り子』

 

女性の自立への冷たい視線

セーラージャージとズボンを着たシャネル(1928年)

当時は、働く女性が軽蔑されていましたあのココ・シャネルでさえナイトクラブからはじまり、お針子をつとめてパトロンの家に入っていたのです。事業を立ち上げるまでには、いえ、立ち上げてからも冷たい視線を浴び続けていました。女性の自立はとんでもなく「ありえない」ものだとされていたのです。ちなみにお針子は「娼婦予備軍」、オペラ歌手は娼婦と紙一重と見なされていたそうです。

 

当時の生々しい日常風景

ドガは舞台より、楽屋での踊り子たちを好んで描きました。中にはシルクハットに蝶ネクタイ、黒ずくめの紳士たちが、踊り子と立ち話をするシーンなども含まれています。これこそが、彼女たちを娼婦として援助しているパトロンたちであります。ドガの描写は控えめですが、他の画家による絵にはかなり露骨に両者の関係が示されています。明らかに媚を売る踊り子の様子、まるで娼婦と値段交渉をしているかのような男たちの姿が山ほど描かれ、いかにそれが日常風景であったかが見えてくるのです。

エドガー・ドガ Ballet Rehearsal, 1873(バレエのリハーサルシーン 1873)

 

あとがきにかえて

ドガが描く踊り子たちはどれも個性がない美しい曲線と、人工の光のコントラストとは裏腹に、「感情」というものが感じられない、と揶揄する者もいました競走馬や機種を描くのと同じで、ドガの興味は、個人ではなく動きや形態に向かっていたのでしょう。

だからこそ、無機質な世界をキャンパスに描き取ることができたのかもしれません。絶妙な光のコントラストで包まれた踊り子たち、それはとても華やかで美しく見えますが、画家が描いたのは女性に厳しかった当時のパリの現実だったのでありました。

Dancer with a Bouquet of Flowers

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参考文献

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