【愛の寓意をわかりやすく解説】ブロンズィーノが描いた憂いの欺瞞と愛欲

絵画や神話・物語

1545年頃、ブロンズィーノによって描かれた愛の寓意。これは寓意画という、色々要素 (たとえ) をいれこむことにより、絵画に物語を吹き込むスタイルの作品ですね。

真ん中でキスをするヴィーナスとキューピッドは愛欲の象徴。その他にも、「時の翁」や「欺瞞」など多くの寓意が事細かに描き込まれています。今日はこの意味ありげで、複雑な作品をわかりやすく解説していきます。

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愛の寓意

ブロンズィーノの愛の寓意を解説  (ブロンズィーノと思われる肖像画)

「愛の寓意」を描いたのは、メディチ家の宮廷画家だったブロンズィーノ。「様式化した冷たい絵画表現」を好んで描いた画家で、不自然に長く引きのばされた身に非現実的なポーズ、感情を殺した仮面のような表情などが特徴です。

有名な作品の中には、本を持つ若者の肖像や、エレオノーラ・ディ・トレドなどがあり、ルネサンスの技術や画風をさらに突き詰め洗練させた画家でもありました。その中でもやはり、有名なのが「愛の寓意」でしょう。

寓意とはなにか

解説する前に、まずは「愛の寓意」に多くみられる「寓意」とは何かをみていきたいとおもいます。寓意とは、かんたんにいうと「たとえ」のことです。たとえば「禁断の果実」などですね。禁断の果実にはこういった比喩が込められています。

それを手にすることができないこと

手にすべきではないこと

あるいは欲しいと思っても、手にすることが禁じられていることにより、かえって魅力が増し、欲望の対象になるもののこと

 

絵画の中に、こういったものを描きこんで、れが意味するなにか」を匂わせるのです。

「正義」や「怠慢」など、道徳的な要素をそっと入れ込むことで、人間に役立つ教訓を教えるのが寓意の役割です。寓意は通常、動物や静物、自然現象など様々なもので表されますが、擬人化されることもあります。

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絵画にこめられた寓意 (たとえ)

愛のアレゴリー (愛の寓話) ブロンズィーノ (ブロンズィーノの愛のアレゴリー)

キャンパスはせわしなく埋め尽くされており、見た者は絵の艶かしさに畏怖を覚えるといわれる「愛の寓意」。エレガントな色彩の美しさ、さらに注目してしまうのは、真ん中にうつる女性は陶器のようになめらかな肌でしょう。

その輝かしい白さが、背景の妖しいブルーによく映えています。クッションの赤や衣装の緑といった配色にも目を奪われ、どこを見ていいかわからないのもこの画の特徴かもしれません。とくに目をお引くのは「生々しい貴婦人の女体と、絡みつく裸体の男の子」でしょうか。

ヴィーナスとキューピッド

この絵画の主役は、真ん中に描かれた色気溢れる愛の女神 (ヴィーナス)。左手には、禁断な果実であるりんごを、右手にはキューピッドから奪ったとみえる矢を持っているのがわかりますね。ちなみに、ヴィーナスにキスをしているのがまだ幼いキューピッドです。

エロスとも呼ばれるキューピッドは、ヴィーナスの息子です。そう、このふたりはなんと親子なのです。母子像にしては、何とも不思議な構図ですよね。この寓意画は「愛の中にある官能は、人間性を逸脱させることもあるということを示したいのかもしれません。

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欺瞞をあらわす緑の少女

左で静かにたたずむ愛くるしい少女は、なんとスフィンクス。表情もどこか恨みを残したような不思議な面持ちにみえませんか。「顔は人間なのに、胴体は爬虫類で尾には毒針がついている」というのは、ダンテの神曲に出てくる、「欺瞞界に住む怪物」によく似ています。

「欺瞞」を表す仮面だけでなく、彼女が手にしている物にも意味がこめられています。大前提として、右手にある物には「理性や正義」といった善。反して左いては「弱さや不正」といった悪を象徴することが多いです。彼女は右手に「毒」をもち、左手に甘い蜜を持っています。善には毒が、悪には甘美が存在するという世界の本質を示しているのかもしれません。

すべてをつかさどる「時」の存在

愛のアレゴリーをわかりやすく解説

右上の翁は、淡くも闇深いブルーのカーテンを剥ぎ取ろうとしています。これは、夜の帳にかくれていた「愛の名のもとにうごめく様々なものが、一挙に白日のもとに晒される」場面を描いているのだと思われます。

翁は白い翼と砂時計をたずさえ青いヴェールをはがそうとし、左側の女性がそれをおさえていますね。誰しもが時に抗おうとするものですが、自然の摂理はそうさせてくれません時がたてば、白日のもとに晒されることもあるのです。

それをおさえる「心理」の存在

尚、「時の翁」の向かいにいる女性には、主に2つの説があります。

  • 女性は、翁の娘「真理」であるという説
  • 女性は、時に抗う「夜や忘却」という説

前者は、彼女はヴェールをはがそうとしている父翁の手助けをしているというものですね。口をあげた女性の表情は、「背徳の愛」に対する「嫌悪感」からきているものだとみられます。

対して後者は、ヴェールをはがすことに抵抗していることから、単純に青いカーテンは彼女の正体であり、暗闇の暗示であるという説ですね。夜や暗闇は、すべてを覆い隠す不思議な力を持っており、忘却も然りです。

細かいものにも意味が

下に描かれたのは、いちど見たら忘れられないような醜い老婆頭を掻きむしっている老婆は嫉妬の擬人像画面右上の老人は時の擬人像とされています。

ヴィーナスとキューピッドはそもそも愛の擬人像、左下の足元にいる鳩は純愛・潔白の証。無邪気な少年が手にしているバラがあらわすのは「はかなさ」。一時の快楽をあらわし、キューピットが膝をたてているクッションは怠情や好色を示しています。

この絵が示すのは「愛欲と欺瞞」

バラがあらわすのは一時的なはかない感情、ハトにはチラチラ見える純愛、すべてが偽りだという仮面(スフィンクス)、嫉妬に苦しむ老婆、右上に映るのは「真理と忘却」を示す女性。

つまり、この絵は、『一時的な快楽』と『人をたぶらかす欺瞞の寓意像』ではないかといわれています。もうすこしわかりやすく言うと、時間と真理によって、ヴィーナスとキューピッドの愛欲が暴かれようとしているのです。

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まとめ

「愛の寓意」には、愛に絡めて、さまざまな要素、悦び、苦しみ、偽り、光悦がからめて表現されています。寓意画はとっつきにくいものではありますが、こうしてひとつひとつを見ていくと、壮大なストーリーとあわせて教訓が浮かび上がってくる気がしませんか。

教養高く、宮廷貴族の肖像画を多く描いたブランズィーノ。宮廷人は神話や文学の寓意を読み解くのが大好きだったと言いますから、この難関な寓意画は教養高いブロンズィーノだから描けたもので、だからこそ宮廷人はこぞってこの絵を愛したのかもしれませんね。

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