ハプスブルク顎としゃくれにまつわる現代の研究まとめ【最も繁栄した王族の闇 】

呪われた王室

長い間ヨーロッパでは血縁者間の結婚が一般的でありましたが、危険を顧みずこの慣習を取り入れその悲劇を被った王家こそスペインのハプスブルク家です。彼らがスペインを支配していた184年間 (1516年から1700年) に行われた結婚11組のうち、9組は近親内でおこなわれていました

ジョン・ダドリーとレディジェーン (テューダー朝家系図)

ハプスブルグ家は、何世紀にもわたってヨーロッパの大部分を中心に世界中へ領土を広げてきました。この広大な帝国に加え、一族は「ハプスブルク顎」や「ハプスブルク唇」といった顔の独特な特徴でも知られています。王朝の王宮はきらびやかで華麗でしたが、ハプスブルクの君主たちは鋭い顎やぶ厚い下唇、長い鼻を持っていました。この記事では、ハプスブルク顎と近親交配の関係について現在わかっている研究結果をまとめていきます。

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スペインハプスブルク家

ハプスブルク顎

“Annals of Human Biology”に発表された新たな研究によると、この特徴的な「ハプスブルク顎」は近親交配によるものである可能性が高いといいます。スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の遺伝学者ローマン・ビラス氏が率いるチームは、スペインハプスブルク家の15人に焦点を当て研究を行いました。

元祖ハプスブルク家がオーストリア、ドイツ、そして最終的には神聖ローマ帝国の支配者として中央ヨーロッパで権力を握る一方、ハプスブルク家の影響力は1496年スペインへも広がりを見せます。

そこから約2世紀にわたり『スペインハプスブルク家』の治世が続くわけですが、カルロス2世が1700年に死去するとともに同家は終末を迎えました。

一因とみられる近親交配

歴史に隠された怖い物語

研究チームは、宮廷画家ベラスケスらが描いたスペインハプスブルク家の人々に注目しました。20世代以上にわたる広範な家系図を用いて、科学者たちは解析したハプスブルグ家の近交係数を求めて、顎との関連性を探っていったのです。

近親係数が高いほど、ハプスブルク顎が突出?

ハプスブルク家 家系図

たとえば「0.093」という数字、これは夫婦のおよそ9%が同じ祖先であった場合の近親係数です。もっとわかりやすい例でいうと、いとこ同士の子供の近交係数は0.0625。イギリスのチャールズ皇太子のように、またいとこ同士の子供の近交係数は0.004だといわれています。

研究者らは、各貴族がどの程度近交系であったかを辿るのに加えて、口腔外科医および顎外科医に、下顎前突症 (しゃくれ) および上顎骨欠損症(くぼんだ顔)といった特徴と係数の関係を確認するよう依頼しました。その結果、その係数が高いほど、顔に異形の特徴が現れていたことがわかったのです。

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高い近親係数の弊害

(左下にいるのがカール5世 カルロス1世ともよばれる)

1517年にイタリアの外交官アントニオ・ディ・ベアティスは、カルロス1世(カール5世とも呼ばれる) のことを「長くて死体のような顔と偏った口 (つねに口は開いていた)」と記しており、その後子孫にはそういった特徴がより凝縮された形で受け継がれていきます。ちなみにスペインパプスブルクの初代家長でかる、カルロス1世の近親係数は比較的低く、0.038でありました。

しかしその後、近親交配は顕著となり、同家最後の君主となったカルロス2世の近交係数は0.25まであがっていたのです。これは兄弟間の子供にみられるほどの高い数値でありました。

カルロス2世には其れ以外にも弊害がでており、舌が大きすぎたことやてんかんなどの病気で周りから「エル・ヘチザド (呪われた子)」 「魔法にかかった子」と呼ばれていました。

ガツガツしていて、食べたものを全部のみこんでしまう。

下あごが非常に突き出ていて2列の歯が合わないからである。

イギリス公使アレクサンダー・スタンホープはシュルーズベリー公爵に宛てた手紙の中で、カルロス2世の様子をこう記しました。それは、彼が亡くなる4年前のことです。

なぜ世代を超えるたび、顎が顕著になったのか

カルロス2世

近親交配のレベルを示す係数と突出した顎の関係について、研究チームはハプスブルク顎が『劣性遺伝子』によって引き起こされたことを示唆しました。

劣性遺伝子は、両親が持つ遺伝子コピーの両方が同じ場合にのみ現れるため、近親交配によって受け継がれる重複遺伝子は、統計的に劣性形質が発現する可能性が高くなります。少し難しいので、もう少し簡単に説明しましょう。

普通こういった顕著すぎる顎など『劣勢遺伝子』をどちらかの親が持っていたとしても、片親の優勢遺伝子が表立ちそれをカバーすることができます。しかし近親内での婚姻が続くと両方の親が同じ『劣勢遺伝子』を持つ可能性が高くなり、段々と外見内面にあらわれていきます。

カルロス2世はそれが顕著にでた例だったといえるでしょう。それでも、科学者や研究者は、近親交配ではなく遺伝的変化がランダムに蓄積した結果、「ハプスブルク顎」の頻度が増加したという別の仮説も否定しきれないとも述べました。

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まとめ

フェリペ2世の肖像画 (スペインハプスブルク) (スペインハプスブルク家2代目君主 フェリペ2世)

昨今の研究では、ハプスブルク顎は、元々祖先が持っていた劣勢遺伝子が、近親交配によって子孫に引き継がれていき、凝縮され表面するに至ったという説が濃厚です。その結果生まれる子供は次々となくなり、王家断絶という悲しい結末をもたらすに至ったというのです。

以前、サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学の遺伝学者たちは、ハプスブルグ家にうまれた子供の生存率が18%も低下していたことを突き止めました。これは積み重ねられた近親交配の結果だったと結論付けました。彼らは「王朝の消滅」をカルロス2世がもっていたであろつ「2つの稀な劣性遺伝子」が両親から同時に引き継がれ、顕著に現れた結果であるとしたのです。

内輪内で結婚することでハプスブルク家は名声を維持し権力を集中させることができるようになったのですが、その結果、最終的には一巡して王位から転落した、その終焉は何とも皮肉なものだったのでした。

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※劣勢遺伝子と記載がありますが、これは海外文献・研究レポートをそのまま翻訳したものであり他意はございません。

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